看板犬いちごは現在「甲状腺機能低下症」の疑いで治療を続けています。
病の影響でほぼ脱毛していた身体の毛も、今ではすっかりモコモコに毛が生え、
血液検査の数値も標準値への回復してきました。
しかし、一年前のいちごは検査結果も思わしくないし、
首から下は脱毛してとても可哀そうな姿をしていました。
狂犬病ワクチンを打ってもらおうと動物病院に行ったものの
院長先生の判断により”接種見送り”となっていました。
そうなんです。
先日の林先生のコラムにもあった通り、
体調によっては狂犬病ワクチンは見送ることができるんです。
今年は、随分体調も良くなったいちご。
獣医さんと良く相談の上、今年の狂犬病ワクチン接種について検討したいと思います。
そして、ワクチン接種と言えば
狂犬病の他に混合ワクチンもありますね。
皆さんは、混合ワクチンは毎年接種させていますか?
狂犬病ワクチン同様、混合ワクチンも毎年接種しなければならないと思っていますか?
今回は、混合ワクチン接種について林先生にコラムを書いて頂きましたので
是非この機会に混合ワクチンについて考えてみて頂けましたら幸いです。
こんにちは。獣医師の林です。
先日は狂犬病についてお話させていただきましたが、今日は混合ワクチンについてのお話をさせていただきます。
狂犬病ワクチンは国で定められている『必須ワクチン』ですが、
混合ワクチンは個人で接種するか否かを選べる『任意ワクチン』ということはご存じでしたでしょうか?
混合ワクチンも、ペットショップやブリーダーさんから迎え入れるときにすでに接種が終わっており、
動物病院からも毎年ワクチン接種のお知らせのお葉書が届くので、
『必須』と思われている方も少なくないように思います。
ワクチン接種のメリットとしては、ウイルス性の感染症の予防になるということ。
犬猫さんにとって致死率の高い感染症に対してあらかじめ免疫力を付けておくことで、
万が一感染してしまっても軽症で済むように接種するものになります。
混合ワクチンは何種類のウイルスに対して予防効果があるかワンちゃんで2種~11種、
ネコちゃで3~5種があります。(その他、単体のワクチンもあります)
ワクチンを打っておくことで、その感染症に対しての『抗体(武器のようなもの)』を作ることができます。
生まれたばかりの子は、母乳に含まれる移行抗体という免疫によって体が守られていますが、
移行抗体は生後数か月で消失してしまいますので、
移行抗体がなくなった後に体を守るためにワクチン接種が必要となります。
移行抗体がなくなる時期は個体差があるので、
初年度のワクチン接種はだいたい2~3回に分けて追加接種を行います。
そして、もう一つ重要なのは、ワクチンの種類をどうやって選ぶかという点です。
『種類が多いほうが安心』ということで、
ウイルスが予防できる数が多い混合ワクチンを接種されているというお話もよく伺いますが、
種類が多ければ多いほどお体には負担がかかるということはご存じでしょうか?
混合ワクチンには『コアワクチン』と呼ばれるものと『ノンコアワクチン』と呼ばれるものが含まれています。
『コアワクチン』とは、感染力がとても強く命にかかわってしまうことがあるような感染症で、
・人獣共通感染症であり人の健康に重大な被害を及ぼす可能性がある伝染病
・広く流行しており多くの動物に被害を与える可能性がある伝染病
を予防するワクチンを指します。
例えば、ジステンパーウイルス、パルボウイルスなどがあります。
『ノンコアワクチン』はコアワクチンほど強いものではないものの、
生活環境やライフスタイルに合わせて必要になるワクチンを指します。
例えば、レプトスピラ、パラインフルエンザウイルスなどがあります。
世界小動物獣医師協会(WSAVA)では、
コアワクチンは一度免疫を獲得すると3年間免疫力が維持できるとされています。
そのため、WSAVAのワクチネーションガイドラインでは、
コアワクチンの場合初年度に接種が終わった後は3年ごとよりも短い間隔で接種すべきではないとしています。
ノンコアワクチンについては、地域によって発生率も変わります。
そのため、地域ごとのウイルス感染症発生率を調べていただいたうえで、
何種類の混合ワクチンを受けたほうが良いのか否か検討されるのがお勧めです。
住む地域以外にも、アウトドアなどで地方に行かれることが多い方は、
その地方の発生率も調べておいたほうが良いですね。
(数年前のものにはなりますが『いぬねこワクチン』というサイトで調べることができます。)
ただ、ウイルスの種類によって免疫持続期間も違いますし、
中にはノンレスポンダーと言ってワクチンを打っても抗体価が上がらない体質の子もいらっしゃいます。
WSAVAでは、ワクチンも薬の一種であり、むやみやたらに打つものではないと記載していますので、
年に1回のヘルスチェックとしてワクチンの効果を判定する血液検査(抗体価)を実施し、
抗体価をみた上で、現在どのワクチンが必要なのかを判断し接種するのが理想です。
また、混合ワクチンも狂犬病ワクチン同様、副作用のリスクがあります。
狂犬病ワクチンの記事でもお伝えしましたが、ワクチンは重篤なアナフィラキシーを引き起こす可能性があります。
アナフィラキシーが起きてしまうのは接種後15~30分程度に発生する率が高いため、
接種後はご愛犬のご様子をしっかりみてあげてください。
可能であれば、接種後15~30分程度は院内で待たせていただくか、お車での来院の場合には車内で待機するなど、
何かあったらすぐに病院に駆け込めるような場所で待機されることをお勧めいたします。
アナフィラキシー以外にも、ムーンフェイスや嘔吐、粘膜の蒼白などの副作用が見られるほか、
ネコちゃんの場合には『ワクチン反応性肉芽腫』という進行がとても速い腫瘍を引き起こしてしまうこともあります。
接種後に体調不良を起こした際、動物病院の診察時間内にかけこめるよう
午後も診察している日の午前中に接種されることをお勧めします。
※ワクチンによる副作用の報告については、『動物用医薬品等副作用データベース』のページで調べることができます。
我が子が一体どのワクチンを接種しているのか、そのワクチンでどのような副作用の報告があがっているのかは、
一度ご確認いただいたほうが良いかと思います。
大事な命を守るためのワクチンで、命を落としてしまっては元も子もありません。
今は、トリミングサロンやドッグカフェでも『ワクチン抗体証明書』があれば入れるような場所も増えてきているようです。
予防と言えお体に負担がかかるものですので、その子のご体調やどこまでの種類が必要か否かなど今一度お調べいただき、
一番お体にご負担とならない方法でワクチネーションをおこなってあげてくださいね。
私たち人間もそうですが、予防接種を受けた後は「お風呂に入らない」「安静に過ごす」
など、注意事項があります。
ご愛犬の場合も同じです。
ワクチン接種後は、運動などは控えゆっくりと一緒に過ごしてあげて下さい。
そして体調の変化があった場合はすぐに対応できるよう
愛犬だけをお留守番させることは控えて、
必ず午後診療もある日の午前中に接種するようにしてあげて下さいね。
そして、日頃から栄養たっぷりの食事と適度な運動で
体力・免疫力のある身体作りを心がけて下さい。
この記事を書いた人
この記事を書いた人
獣医師
林美彩 先生